第15回 認定NPO法人フローレンス

保育スタッフから経営陣も育てたい!社会問題解決のため

「働き方×人材育成」革命をやりきり400人超のNPO法人に(前編)

病児保育をはじめ、待機児童、障害児保育、赤ちゃんの虐待死などの社会問題の解決に取り組む認定NPO法人。代表理事は駒崎弘樹氏。「地域の力で病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくりたい」との思いから、ITベンチャーの経営者だった駒崎氏が2004年に設立。経済産業省「ソーシャルビジネス55選」(2009年)、日本経済新聞社「日経ソーシャルビジネスイニシアチブ大賞」(2013年)など受賞歴多数。2016年7月1日現在、事務局スタッフ93人、保育スタッフ320人。その他理事なども加えたメンバー数は433人に上る。ディレクター(事務局長)の宮崎真理子氏は、大手アパレルメーカーからベンチャー企業に転職し、マーケティング、人事を経験して2008年フローレンスに入社。現在は組織運営全般を担う。

◇ 国内NPOとしては異例!10年で400人規模の組織へと成長

フローレンスが全国初の共済型・自宅訪問型の病児保育事業「フローレンスの病児保育」をスタートしたのが、今から約10年前の2004年。以来、小規模保育所「おうち保育園」、日本初の障害児専門の保育園「障害児保育園ヘレン」、障害児に特化した訪問保育事業「障害児訪問保育アニー」など、既存の企業や行政の手が行き届かない社会課題に一つ一つ向き合い、事業を拡大してきた。2016年には、赤ちゃんの虐待死問題を解決するため、新たに「赤ちゃん縁組事業」にも乗り出している。

 

わずか4人のメンバーで立ち上げた組織は、今や国内のNPO法人としては前例のない400人規模に拡大。代表の駒崎弘樹氏が、若き社会起業家、オピニオンリーダーとして脚光を浴びる一方で、フローレンスという組織も道なき道を切り拓くソーシャルベンチャーとして大きな成長を遂げてきた。この成長を支えてきたのは「人」だ。同社の人材育成の基本的な考え方について、ディレクターの宮崎真理子氏はこのように語る。

 

「スタッフの可能性を最大化することを第一に考えています。人って可能性の塊ですから。その潜在的な力をフローレンスで花開かせてほしいという思いで人材育成に取り組んでいます」

◇ 長時間労働で新婚女性が退職! 生産性を高める「働き方革命」へ

フローレンスの組織作りにおいて、重要なキーワードの一つが「働き方革命」だ。

短期間に急成長する組織には長時間労働という課題がつきまとう。今でこそ、ワークライフバランスが社会的にも重視されてきてはいるが、フローレンス設立当時はまだそのような空気はなく、スタッフも独身の若手が多かったため、誰もが夜遅くまで働く日々が続いていた。そんな中、新婚の優秀な女性社員が、「こんな長時間労働が常態化した職場で働くことを夫が許してくれない」という理由で退職するという事態が起きる。これがきっかけとなり、代表の駒崎弘樹氏自らの発案で「働き方革命」がスタートした。

まず取り組んだのは、決められた時間で成果を出すスマートワーク。具体的には、スリムタイマーというパソコン用ソフトを使って「文書作成」「社内会議」などの項目ごとに自分がどれだけ時間を掛けているのかを正確に把握することから始まり、一人が仕事を抱え込まないようにするための仕事の「仕組み化」、社内会議やメール処理を効率化するためのルール作りなどを推進。試行錯誤を重ねながら、フローレンスは、ほぼ残業のない職場を実現してみせた。

無駄な労働時間が短縮できれば、家族のために、自分の成長につながる学びのために割くことができる時間が増える。「働く」とは、生活のためのペイワークだけではなく、プライベートも含めて、他者に価値を与える(傍を楽にする)こと。「働き方革命」の根幹には、フローレンスの理念や事業にもつながるこのような考え方がある。

「事務局スタッフの平均残業時間は1日15分。現在は子育て中のスタッフも非常に多いですが、ワーキングペアレンツも安心して働ける環境になっていますね。また、既存のスタッフが生き生きと働くことができるようになっただけでなく、この働き方を求めて、外から優秀な人たちが数多く集まってきました。採用面でのインパクトも非常に大きかったです」 

◇ マネージャーには自分の言葉でビジョンを語ることを求める

働き方改革によって各自の、さらに組織としての生産性を高めることで、優秀な人材が長く働き続けられる環境は整備された。同時に、ビジョンの浸透も急成長する組織にとっては重要なテーマだ。

 

同社のようなソーシャルベンチャーには、そもそも組織のビジョンに共鳴した人材が集まってくる。しかし、一般論として、組織が大きくなり、一人ひとりが目の前の仕事だけにとらわれるようになると、共有されていたはずのビジョンにズレが生じがちだ。

 

早い段階でその課題を意識していた同社では、『変革者たれ』『アイデア相撲を取れ!』といった行動指針(フローレンスウェイ)を会議室の一つ一つに掲げて常に目に入るようにしたり、社名ロゴのリニューアルに際しては、全社員を集めてワークショップを行ったりと、ビジョン浸透のための工夫をさまざまなかたちで重ねている。

 

中でも最も大切なのが、経営とスタッフとのパイプ役であるマネージャーの役割だ。

 

「マネージャーには、経営が示すビジョンや方針をそのまま話すだけではなく、メッセージを自分の中で消化し、自分の言葉でスタッフに伝えることを求めています。同じ言葉であっても、そこに話す人の気持ちが乗っていなければ聞く側には届きません、経営の言葉に対して『自分はこう思う、だからみんなとこうしていきたい』と語ることが大切だと考えています」

 

組織の拡大に合わせてマネージャーの育成にも力を入れており、一般的なマネジメント研修のほか、個人コーチング、チームコーチングを実施して、意識付けをしっかりと行っている。また、自分の事業部だけでなく、他の事業部の動きも見て、常に全体最適を考えられる「経営の視点」を持つことも、経営陣とのやりとりを通して養われている。

 

~後編へ続く~

 

構成/伊藤敬太郎


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