第12回 株式会社ランクアップ

残業少なく働きやすいのに、社員が暗い原因は社長にあった!? 

本当の「働く女性の幸せ」実現ドキュメント(後編)

2005年、広告代理店を退職した岩崎裕美子社長が「自分が本当に欲しい化粧品を作りたい」との思いを抱いて創業。「美容液で化粧を落とす」という業界の常識を覆す発想から生まれた感動化粧品マナラ「ホットクレンジングゲル」は発売から10年で600万本を売り上げる大ヒット商品となり、会社全体の売上高も11期連続で上昇中。第11期は75億円に達した。働くママをサポートする社内制度の充実ぶりでも知られており、2013年には、東京ワークライフバランス「育児・介護休業制度充実部門」認定企業に選出。岩崎社長の経営哲学とランクアップの成長史は著書『ほとんどの社員が17時に帰る10年連続右肩上がりの会社』(クロスメディア・パブリッシング)にもまとめられている。社員数は45人(2016年4月現在、アルバイトを含む)。

◇ 2カ月に1回の面談を実施し、上司・部下の相互理解を促進

もう一つ、社員のモチベーションを高めるうえで重要だった施策が人事評価制度の導入だ。それまで、ランクアップには人事評価制度がなく、特に成果が数字で表れないバックオフィス系の社員には「認められる」機会が少なかった。そこで「挑戦」などの項目を盛り込んだ評価制度を採り入れたのだが、岩崎社長が重視したのは評価項目以上にその運用だ。

 

半期に1度の査定の際にのみ評価を伝えるのでは、結局、「普段の姿を本当に見ているの?」という不満が生まれてしまう。そのため、同社では、2カ月に1回のペースで上司と部下との面談を設定。「このままだとこの項目の評価がCになるよ」「この項目は最近すごく頑張っているね」といったコミュニケーションを定期的にとることで、会社側の評価と自己評価とのギャップを埋めている。その際、上司は定められた項目に沿って事前にやりとりを想定した育成面談シートを作成して臨むのがルール。これによって、上司の人間力に左右されない公平な制度運用をキープしている。

 

「管理職の役割は部下の挑戦を応援すること。自分のことで手一杯では人を育てることはできません。そこで、管理職の成長を促すために、部下が上司を評価するサーベイも導入しました。これも大切なのは評価そのものより、それをきっかけに上司と部下が腹を割って話す機会を設けることにあるんです。率直なコミュニケーションを通して、管理職も客観的な視点で定期的に自分を見つめ直し、変わってほしいと考えています」

 

やりたいことに挑戦することができて、その成果を公平に認めてもらえる風土、環境。これらが整えば社員のモチベーションは高まるが、その副産物も当然想定しなければならない。常識的に考えれば必然的に仕事量は増え、労働時間が長くなる。しかし、長時間労働を前提としている限り、出産・育児を迎えた女性はその時点で戦力外になってしまう。昼も夜もなく働き続けた広告代理店の営業職だった時代、岩崎社長はまさにそこに不安を抱いたという。「自分が会社を作るなら、女性が子育てをしながら長くイキイキと働き続けられる会社にしたい」という思いは創業以前からあったのだ。

◇ 「社員が成長できること」こそがランクアップの経営の軸

そこで、話は冒頭で触れた「ほとんどの社員が17時に帰る」というトピックに戻る。

 

「長時間労働をせずに挑戦を続けてもらうためには、仕事に優先順位をつけて、その社員の一番重要なミッションに注力してもらうことが必要だと考えました。無駄な仕事をやっていないか見直せば労働時間は短縮できますし、その人でなくてもできる仕事はアウトソーシングしたり、システム化したりすればいいんですから」

 

ただし、まだワークライフバランスより仕事を覚えることを最優先すべき新入社員には残業を認めるなど、社員の成長ステージごとの働き方への配慮もなされている。こうした結果、岩崎社長がかつて思い描いていた理想の会社が、今、現実のものになっている。2012年までの「暗黒時代」には、業績は伸びていても外で会社の自慢をする気になどとてもなれなかったというが、今は自信をもって、「社員が成長できること、それがランクアップの経営の軸なんです」と言い切ることができる。

 

同時に、当然ながら、岩崎社長の目は未来のランクアップにも向いている。前述の転換期にスタートした新卒採用は、今年の内定者で4期目。女性3人ずつの採用を続けてきたが、2017年度入社は男女2名ずつを採用した。彼ら彼女らに岩崎社長が期待するのは、将来の経営幹部だ。

 

「単に化粧品の仕事をしたいという人は採用していません。当社は、今後『女性が幸せに生きる社会』を作るために、化粧品だけでなく、育児、介護、教育など幅広い分野の事業に進出していきたいと考えています。新卒採用した子たちには、その事業部長に、うまくいけばグループ会社の社長になってもらいたいと思っていますし、そう伝えています」

 

意欲の高い新人が加入したことは、先輩たちの「負けていられない!」という気持ちを掻き立て、組織の活性化にも繋がっているという。

 

売上高だけでなく、人も右肩上がりに成長を続け、それによって会社もまた成長する──。人が育つ会社の可能性は無限大だ。そのことを今後もランクアップが証明し続けてくれるだろう。

◇ 前川孝雄の取材後記

経営者が変われば会社は変わる!岩崎社長の「素直さ」に感銘

ワークライフバランスが盛んに叫ばれるようになった昨今、育休制度や時短勤務制度の充実、労働時間の短縮など、働きやすい環境の整備が多くの企業で活発になっている。もちろん、制約のある多様な人たちが長く働き続けることができる制度・環境は今や必要不可欠であるし、無用な長時間労働は改善されるべきだ。ただ、社員一人ひとりが本当の意味でイキイキと仕事をするためには「働きやすさ」を追求するだけでは不十分だと私は考えている。

 

もう一つ注目したいのは、失礼な言い方かもしれないが、岩崎社長の「素直さ」だ。一般的に、実績を残してきた経営者ほど、それまでの自分のやり方に強いこだわりが生まれ、簡単には変わることができない。しかし、岩崎社長は「自分の誤り」と気づいた瞬間に、180度自分を変えることができた。その姿を率直に見せたからこそ、社員もついてきたのだ。

 

経営の神様と呼ばれた松下幸之助翁も、困難な問題に立ち向かうために「素直な心」の重要性を訴え続けた。リーダーシップ論の権威であり、ハーバード・ビジネススクール松下幸之助記念講座名誉教授でもあったジョン・P・コッターは、著書『幸之助論』(ダイヤモンド社)の中で、彼のこんな言葉を引用している。

 

「素直な心とは、とらわれない心、新たな状況にうまく適応していける自由な心といえるかもしれない。こういう心を持った人は、そのつど物事をあるがままに見つめ、個人的な思い入れや偏見なしに率直に受け入れることができる。偏見を抱いている人は、何事も色眼鏡や歪んだ眼鏡を通してしか見ることができない。そういう人にとっては、白い紙は青く見え、直線は曲がって見えるかもしれない。これではその物の本質は見えないままになってしまう。こういう歪んだ知覚を通じて見えるものから判断を下そうとすれば、惑わされることになりかねない」

 

素直であること、そして、他責ではなく自責で考えること。これは激しい変化のなかで経営の舵取りをするトップにとって、大切な従業員を育て活かすために極めて重要な素養だ。経営者が変わることができれば、会社は変わるのである。

 

構成/伊藤敬太郎


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