第8回 株式会社日本レーザー 

リストラは絶対にしない! 生涯雇用と実力主義を

両立させる「新しい日本型経営」(後編)

1968年設立のレーザー専門商社。1993年に3年連続の赤字で債務超過に陥り、近藤宣之現社長が経営の立て直しのために本社から出向。「リストラは絶対にしない」と宣言すると同時に、粗利管理の導入などの業務改善を徹底して行い、就任1年目で黒字転換に成功した。翌年、親会社の取締役を退任し、背水の陣で臨んだ結果、2年目で累積赤字を一掃して復配に成功。現在に至るまで22年連続で黒字経営を維持している。2007年には国内では異例のMEBO(経営陣と従業員が参加する企業買収)により、親会社から独立。社員第一主義の経営は社外からも高く評価され、「第1回 日本でいちばん大切にしたい会社大賞(中小企業庁長官賞)」、経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」など表彰歴も多数。従業員数は60人(2016年1月現在)。

◇ 「目に見えない貢献度」を社員同士が話し合うアナログ成果主義

「成果」の評価方法もユニークだ。同社では、「売上げ」ではなく「粗利」を重視して成果を評価するが、「目に見える成果」だけに注目すると、高い粗利は担当営業だけの手柄になってしまいがちだ。しかし、同社では「目に見えない貢献度」もしっかり評価する。 

 

「一つの受注を得るまでには、営業だけでなく技術部の社員など複数のメンバーが関わっています。ですから、当社では該当する案件の粗利を関わったメンバーで必ず分配します。『技術部の社員が事前説明やデモンストレーションを担当したら30%』など、基本となるルールを設け、後は当人たちが話し合って決めます。いわば『アナログ成果主義』。毎年7200件の受注がありますが、分配で揉めたケースは1件もないですね」

 

「理念の体現度」に関しては、一般社員・幹部社員それぞれに設けられた20項目で評価される(定年再雇用の社員は10項目)。「誰とでも何時でも、明るい笑顔で接し、きちんと挨拶している」「他人を頼らず、自分に確信をもって行動している」「現状に甘んぜず、常に意識改革し、自己革新している」といった評価項目に対して、それぞれ10点満点で10点、6点、2点、0点の4段階で評価(0点は例外的)。そして、その評価は年2回の上司との面談において本人にフィードバックし、自己評価との隔たりがあれば、しっかり話し合って認識のズレを埋めていく。その結果、評価は成長への目安となり、全社のレベルが上がっていく。

 

人を軸とした同社の「新しい日本型経営」を追求するには、「徹底した理念教育」が重要な意味を持つ。この理念主義に基づく評価と年2回のフィードバックにより、社員は、自分が理念に沿った行動ができているかどうかを常に振り返り、意識するようになっている。

◇ 脱!おカネに走るアメリカ型経営。人を育てれば業績はついてくる

仕事での成果も、スキルアップのための努力も、それが評価につながらなければ人はモチベーションを失う。多くの会社では、上司の個人的な判断で偏りのある評価が下されることも珍しくない。日本レーザーは、そういう不公平さ、不透明さの徹底排除を目ざすことで、努力が正当に報われる競争環境を実現している。

 

「大切なのは社員の納得感です。人事においてもその点は意識しています。私の後継者となる次のリーダーも一連の客観的な評価に基づいて決めていますし、その次のリーダー、さらにその次のリーダー候補たちも同様です。このような人事を徹底していると、社員の間に『何であんなヤツが』といった不満は生ませません」

 

90年代以降、多くの日本企業がアメリカ型のグローバルスタンダードを志向し、「“人”ではなく“おカネ”を見る経営」に走ってしまった。その結果、人が育つ環境も失われていった。今、日本企業はそのツケに見舞われている。一方で、「人を雇用し、人を育てる」ことを何よりも大切にしてきた日本レーザーは、債務超過からの大逆転を果たし、1998年には20億円、2005年には30億円、2010年には40億円と順調に売上げを伸ばしていった。

 

人を大切に育てれば業績は後からついてくる──その経営の大原則を同社はまさに体現している。

◇ 前川孝雄の取材後記

社員の「自己効力感」を大切にする非管理主義が人を育てる

厳しい競争環境やコンプライアンス重視の流れのなかで、今、日本企業には管理主義が蔓延している。その結果、常に監視され、頭を押さえつけられ、任せてもらえない社員はやる気をそがれてしまっている。

 

それに対して、日本レーザーは人を管理しようとはしない。あくまで一人ひとりの自発的な成長を促しているところに同社の人材育成の特色がある。キーワードは「自己効力感」だ。誰もが納得できる評価のしくみを整備し、雇用形態や性別の区別なく、努力や成果が正当に認められる環境だから、社員はそれぞれに高いモチベーションを持って働くことができる。

 

インタビューの中で、近藤社長は企業の「自己組織化」の重要性についても言及していた。社員を徹底して管理したところで組織としての成長は望めない。むしろ、社員の自由に任せ、会社はときには彼らに想定外の刺激を与え(同社が推し進めてきた斬新な経営改革がそれに相当するだろう)、揺らぎを生み出すことで、自ら成長し、進化する強い組織にすることができる。卓越した経営論である。

 

また、「人を大切にする」ことは決して「人を甘やかす」ことではないというのは、私自身も持論としているところ。「厳しさ」があってこそ人は育つということについても、今回の取材で改めて認識を深めることができた。

 

アメリカ現地法人でも長く経営に関わり、グローバル企業経営者として修羅場を潜り抜けてきた近藤社長の「新しい日本型経営」に、今こそ日本企業は学ぶべきだろう。

 

構成/伊藤敬太郎


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