第30回 トラスコ中山株式会社

ベテラン、管理職でも異動・降職あり!公平公正な人事制度、「取捨善択」の理念を鍛える研修で自律型社員を育成(中編)

「がんばれ!!日本のモノづくり」をスローガンに、工具や作業用品、消耗品、機械類など工場や建設現場などで使われるプロツールを扱う商社。1959年、大阪市天王寺区で創業。1994年に現経営者の中山哲也氏が代表取締役社長に就任し、2014年には東京都港区に本店を移転。全国に98か所の拠点があり(内50か所は物流拠点)、取り扱いアイテムは2017年3月末時点で約149万点。かつ毎年約3万点のペースで新規取扱商品を増やしている。人材開発に関する新しい取り組みも積極的に進めており、厚生労働省が主催する「グッドキャリア企業アワード2017」ではイノベーション賞を受賞。2018年4月時点の従業員数は2561人(正社員1523人、パート1038人)。女性社員数も年々増えており、現在の男女比は2:1。2017年の売上高は1950億9600万円で、2011年以降右肩上がりの上昇を続けている。

◇ 自分の「損得」ではなく「善悪」で判断できる思考を研修で鍛錬

階層別に実施している研修も同社の人材育成の重要な柱となっている。

入社時、4年目、6年目に全員を対象とした研修があり、9年目以降は、ボス(管理職)候補になるために必要な研修であるボスチャレンジコース、選択されたボスチャレンジャーの研修であるボストレーニングコース、新任ボスを対象とした新任ボス研修、ボス全員が2年に1回参加するボスマネジメントコース、部長を対象としたディレクターコースが設けられている。

 

階層別研修自体は珍しいものではないが、同社の特色は、研修を徹底した理念浸透、およびその理念をベースとした考え方を鍛錬する場として位置づけていること。研修内容には論理的思考やコミュニケーションスキルなどのスキル・知識に関する教育も含まれているが、研修時間の7割程度は社内で過去にあった事例を取り上げでディスカッションするケーススタディによる理念・考え方の教育に充てられている。

 

「当社の経営理念の一つが『取捨善択』。自分の損得、部署の損得で考えるのではなく、物事の善悪で考え、行動することを社員に求めています。例えば、入社4年目で重要な戦力になっている社員が他部署へ異動になり、未熟な入社2年目の社員が自分の部署に入って来たとします。このとき、自分の利益、部署の利益だけを考えるボスなら当然不満を訴えるでしょう。しかし、会社は人を育てる場であるという俯瞰的な視点に立てば、若手の育成に貢献できるのは名誉なこと。ボスやボス候補を対象とした研修では、実際にこのような事例を取り上げ、『自分ならどうするか』を徹底して考え、議論してもらいます」

このようなケーススタディを中心とした研修と比べると、毎年箱根で合宿して行う新入社員研修はやや異色。チーム対抗で約8キロの山道を走破するこの研修は35年続く同社の伝統で、最初に「自分の限界値を壊す」ことを目的としている。今どきの若者には厳しすぎるのでは?という印象も受けるが、採用時に職場を理解・経験させ、トラスコ中山という会社を理解したうえで入社していることもあり、精神的に耐えられないという理由で脱落する新入社員は毎年1人もいない。

採用はほぼ新卒という純血主義の同社にとって、この新入社員研修でその後の成長の土台を作ることが重要なのだという。

◇部下の自律を促すのはボスの役割。2年ごとの研修でその力を養う

数ある研修のなかでも同社が力を入れているのがボスマネジメントコース。その理由を木村氏はこう語る。

「経営理念もトップのメッセージも掲げるだけでは絵に描いた餅です。また、一人ひとりの社員を研修だけで変えることはできません。経営者の理念を自分の言葉に置き換えて部下に伝えること、日々のコミュニケーションを通して部下の成長を促すことがボスの大切な役割。日々変わる経営環境に対応しつつ、理念に基づいたリーダーシップを磨いてもらうため、2年に1回、ボス全員を対象に実施しています」

 

なお、一連の研修では、知識・スキルに関するものを除き、社員が教官を務める。ティーチング型の一方的に「与える」研修であれば外部のプロ講師が適任だろうが、コーチング型の「一緒に考える」同社の研修は、上司・先輩が教官だからこそ最大の成果が得られると考えている。

 

最後に、同社のユニークな取り組みである「白紙の部屋研修」にも触れておこう。自分で考え、行動する社員を育てることを目的としたこの研修は、手を挙げた社員に、30万円の軍資金と1カ月の期間を与え、自分で設定したテーマを研究するというもの。

 

「新しい商品でも、販売方法でも何でもいいんです。とにかくゼロから自分で考え、研究成果を経営会議で提言してもらいます。10年ほど続けており、毎年1、2名が参加。まだ事業化した例はないのですが、最近は、裏原宿に期間限定のプロツールのショップを出すなど、社内の既存の考え方にないアイデアも生まれるようになってきました。この研修を通して新しい発想ができるイノベーターにも育ってほしいですね」

一連の施策を通して、社員の意識は確実に変わってきた。しかし、まだまだ課題はあると木村氏は言う。

 

「例えば、女性社員が管理職になりたがらないという状況は、他社と同様、当社でもあります。これは女性社員ではなく上司の責任なんです。仕事がある程度できるようになり、自己完結しがちな7年目、8年目がターニングポイントですね。ここに至るまでにボスがどれだけチャレンジ精神を育てられるか。今はそれが研修でも重要なテーマになっています」

 

常に現状の課題に向き合い、未来を見据えて人を育てるトラスコ中山の取り組みは、「若手が育たない」「組織が硬直化している」といった悩みを抱える多くの企業にとって大いに参考になるはずだ。

 

~後編に続く~

 

構成/伊藤敬太郎


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