第28回 有限会社ココ・ファーム・ワイナリー 

命の連鎖の中にこそ人の役割もある!知的障害者たちが働き、サミットや

国際線ファーストクラスにも採用されたワイン造りの奇跡(後編)

栃木県足利市にあるワイナリー。1950年代、特殊学級の生徒と担任の川田昇氏(故人)が山の急斜面を開墾し、葡萄畑を作ったのが始まり。川田氏は、1969年、葡萄畑の麓に指定障害者支援施設「こころみ学園」を設立。さらに、知的障害をもった園生が安心して暮らせるよう、収穫した葡萄でワインを造ることを目指し、1980年、父兄たちの出資を得て、有限会社が設立された。川田氏の長女である池上知恵子氏(現専務取締役)は、東京女子大学社会学科を卒業後、東京で編集者として働いていたが、東京農業大学で醸造学を学んだのち、1984年に同社に入社。同年、池上氏が命名し、社名はココ・ファーム・ワイナリーに。2000年には、スパークリングワイン「NOVO」が九州・沖縄サミットの首里城での晩餐会に使用されるなど、現在では日本屈指のワイナリーとして評価されている。2002年に第1回渋沢栄一賞、2006年に第1回ソーシャル・ビジネス・アワードを受賞するなど、企業としての受賞歴も多数。ココ・ファーム・ワイナリーはスタッフ30人、カフェスタッフ12人。こころみ学園などを運営する社会福祉法人こころみる会は園生148人、職員112人(2016年10月現在)。

◇ 前川孝雄の取材後記

経営者は「人をコントロールする」発想を捨て、「ありのままを受け容れる逞しさ」を鍛えよ

池上専務のお話を伺っていて、会社や上司が「人をコントロールする」という考え方のおこがましさを改めて感じた。経営や人材育成も本質は自然を相手にするのと変わらないはずだ。私たちFeelWorksはまさに人材育成を業としているが、上から「人を活かす」「人を育てる」というスタンスでどれだけテクニックを労しても、人は動かないことをさまざまな現場を通して痛感している。

 

私たちは社会という大きな命の連鎖の中で、池上専務の言葉を借りれば「微生物のように」それぞれの役割を果たしているに過ぎない。経営者も上司もその部下も、言ってみれば同じ微生物のような存在なのだ。しかし、ビジネスや組織運営が複雑になっている現代では、その全体像が見えにくい。視野が狭くなると自分の立場や力の錯覚・過信につながる。そんな状態でいくら緻密な計画を立てても、実際にはほとんどがうまくいかない。

 

池上専務は「今はみんな『わからない』ことがわからなくなっている」と言う。本当に求められているのは、わかったつもりで自分の中で答えを出すことではなく、「葡萄の声に耳を傾けるように」、本来思うようにはならない顧客や社員の声に謙虚に耳を傾けることではないだろうか。

 

もちろん、一般の企業が今すぐにココ・ファーム・ワイナリーのような営みを実践することは難しいだろう。まずは、「人をコントロールする」という発想を捨てることができるかどうか。それが「人が育つ組織」を作るための第一歩になるはずだ。

 

ココ・ファーム・ワイナリーの歴史をたどれば、倒産の危機も何度かあった。しかし、池上専務は、被害総額が1億円に上った火災について語るときも、「トイレも焼けちゃってね、これが本当の『やけくそ』よ(笑)。あと、ワインも焼けちゃったから、こっちは『やけ酒』ね(笑)」と冗談交じり。この明るさと強さは、目先の利益や効率だけに縛られている経営者には決して持てないものだ。「ありのままを受け容れる逞しさ」とでもいうべきだろうか。私自身も経営者として学ぶことの多い取材だった。

 

構成/伊藤敬太郎


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