第13回 三州製菓株式会社

管理職ではなく支援職、企画部門は全員女性。

長期視野のボトムアップ経営で真に人が活きる(前編)

高級米菓(せんべい、あられ)、高級洋菓子(揚げパスタ、サブレ)の製造販売を手掛ける埼玉県の菓子メーカー。創業は1947年。斉之平伸一社長は、松下電器産業株式会社に5年間勤務した後、1976年に父親が創業した三州製菓に入社、1988年に社長に就任。社長就任当時の売上げは7~8億円だったが、デパート、専門店、テーマパークなどへの OEM 製造を中心としたニッチトップ戦略と、現場の人材を育てるボトムアップ型の組織作りによって経営改善に成功。2015年6月期の売上高は25億132万円。売上げの30%を発売から3年以内の新商品で占めることを目標に掲げ、「揚げパスタ」「米粉バウムクーヘン」などのオリジナル商品を次々に生み出してきた。福祉や教育などの社会事業も力を入れる企業家を表彰する「第14回渋沢栄一賞」、経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」など受賞歴多数。従業員数は246人。そのうち女性が182人、非正規従業員が181人(2016年2月現在)。

◇ 「一人三役」「正社員登用」などで、女性が大活躍

埼玉県春日部市に本社を置く三州製菓株式会社は、経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」、厚生労働省「子育てサポート企業」を受賞するなど、女性の活躍を推進する企業として高く評価されている。

 

同社の製品作りは製造現場で働くパートタイマーの女性従業員に支えられている。そのため、同社では、世の中でダイバーシティが話題となるずっと以前から、パートタイマーを含む女性従業員の力を引き出し、長く安心して働き続けられる組織作りを徹底して行ってきた。

 

代表的な取り組みの一つが「一人三役制度」。例えば、総務の一人ひとりがメインのスキル以外に応援できるレベルのスキルを2つ、身につけることにより、誰かが育休を取得して現場を離れても、すぐに他の従業員がフォローすることができる制度だ。育休を取得する際には「自分の代わりがいる」ことへの安心感があり、「次は自分がサポートしよう」という助け合いの精神も育まれる秀逸なシステムだ。

 

また、パートタイマーを対象とした「正社員登用制度」も同社のダイバーシティを象徴する制度。同様の制度はあっても、ほとんど機能していない企業も多いが、同社では女性正社員のうちなんと31%がパートタイマーからの登用組だ。パートタイマーから正社員となり、課長にまでステップアップした事例もあるという。

 

これらの取り組みを見てもわかるように、三州製菓は単に「女性の働きやすさ」を整備するだけにとどまらず、「女性の働きがい」も同時に追求してきた。そこでは正規・非正規の雇用形態の壁も取り払われている。背景には斉之平伸一社長の次のような考え方がある。

 

「当社の社志は“すべてのものを真に活かす”。一人ひとりの潜在的な能力を引き出していくことが、会社としての目標であり、それは私個人にとっての目標でもあるのです」

埼玉県の教育委員長を務めた経験もあり、現在も中学校、高校、大学などで、外部のスピーカー、講師として教壇に立つ斉之平社長は、経営者であると同時に教育者としての顔も持つ。「人を育てる」ことは斉之平社長にとってのライフワークなのだという。

◇ マネージャーは“支援職”。逆ピラミッド型の組織を形成

社長就任当初、経営改善のために斉之平社長が取り組んだのは、ニッチトップ戦略など戦略面での仕掛けと人材育成だった。一人ひとりが社長のように考え、主体的に動ける自律型社員を育てたい──。成長前夜の状態にあった三州製菓にとって必要なことと社長の個人的な思いがそこで一致した。

 

消費者のニーズが多様化するなかで、斬新な新商品を開発するには女性のアイデアが不可欠だという考えもそこにはあった。製造業では特に根強かった“男性正社員中心主義”では時代の変化に対応できない。そこで、現場で働く女性の能力を引き出せる組織へと大胆なシフトチェンジを図ったのだ。

 

しかし、上からの号令や単なる制度改変だけでは、働く人たちのマインドは変わらないし、容易に自律型の人材は育たない。三州製菓の改革を成功に導いたのは、徹底した“ボトムアップ型”の組織作りだ。

 

「当社の組織図は、最上位にお客様があり、その下に従業員、さらにその下に支援職(マネージャー)、そして社長がいちばん下に位置する逆ピラミッド型です。最も大切なのは現場の発想や自主性。上からの指示・命令で人を動かすのではなく、現場を下から支えるのが当社のマネジメントです。上司は管理するのではなく、従業員に権限を与え、自由に仕事をさせることが役割ですから、“支援職”という呼称を使っています」

 

“下から支える”ために重要なのがコミュニケーションだ。

 

例えば、同社では、部下にミスがあった場合、社長も支援職も頭ごなしに叱ることはしない。なぜミスが起きたのかを部下と話し合い、業務改善につなげていく。また、適材適所の人員配置にも気を配っている。一人ひとりの強みを日々の“聴く”コミュニケーションを通して把握し、それぞれが能力を発揮できる役割や業務を与えていく。

 

~後編へ続く~

 

構成/伊藤敬太郎 


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