第10回 株式会社VOYAGE GROUP

オフィスはまるで海賊船!若手も経営会議参加OK!

停滞ムードから働きがいNo.1企業への改革物語(後編)

「SSP fluct」などのアドテクノロジー事業、「ECナビ」などのメディア事業を中心とするインターネット事業を幅広く手掛ける“人を軸にした事業開発会社”。1999年、現代表取締役社長兼CEOの宇佐美進典氏が創業(当時の社名はアクシブドットコム)。2001年に株式会社サイバーエージェントの連結子会社化。今回インタビューした青柳智士氏は、サイバーエージェントを経て、2008年に入社(当時の社名はECナビ)。2009年にCCO(最高文化責任者)に就任し、経営理念、オフィス環境、人事制度などを全面的に刷新する企業文化構築に取り組んだ。その過程の2011年、社名を株式会社VOYAGE GROUPに変更。2012年にはサイバーエージェントからMBOによって独立し、2014年に東証マザーズへ上場、2015年には東証一部に市場変更。従業員数は約370人(2016年5月現在)。

◇ エンジニアがエンジニアを評価する「技術力評価会」

面接担当者は一切マニュアルなしで臨み、「一緒に働きたいか」という基準のみで応募者を評価する。人事部として採用のコミット人数も特に定めない。この新たな採用方法は2012年卒からスタートしたが、新人が配属されたほとんどの事業部から「今年のウチの新人は優秀」という声が続々と挙がったという。また、この世代から社員の意識に明確な変化が生まれたと青柳氏は語る。

 

「『私はこれがやりたい』とIを主語にして語るのではなく、『VOYAGEはこうあるべきだ』と会社を主語にして語れる若手が増えたのは一つの成果ですね。『働きがいのある会社』で1位をとったときも、『青柳さんスゴイですね』ではなく、『やりましたね!』と自分たちのこととして声を掛けられたとき、ここまで来たかとしみじみ感じました(笑)」

 

短期スパンで結果を出す仕掛けと中長期的な改革を組み合わせつつ、企業文化を総合的に構築したことにより、同社では、クルーの自立心や当事者意識が現場の仕事を通して自ずと醸成される風土が整備されていった。では、この企業文化を土台に、人材育成の面ではどのような取り組みをしているのだろうか?

 

新規事業の提案制度、失敗事例を共有する「座礁学」など様々な制度が充実しているが、中でも注目すべき施策が二つある。一つは、エンジニアを対象とした「技術力評価会」だ。その中身は、エンジニアが半期に自分が携わったプロジェクトに関して、他事業部の上位のエンジニアに対して、コードを提出し、プレゼンテーションするというもの。上位のエンジニアはそれをもとに純粋に技術力を評価する。自分の技術力を客観的に測りたいエンジニアは誰でも手を挙げることができる。

 

「エンジニアがエンジニアを評価する仕組みを作りたかったんです。それ以前はエンジニアを非エンジニアがすべて評価していましたが、それでは評価される側の納得感が得られません。だから技術力はエンジニアがしっかりと見る。一方で、事業貢献の部分に関しては非エンジニアが見る。この両輪でエンジニアの評価を決めていきます。技術力が低くても事業貢献度が高ければ総合的な評価は上がりますし、その逆のことも起こります。ダメなところを減点するのではなく、いいところを加点で評価していくという考え方ですね」

 

この評価制度を構築するのも一筋縄ではいかなかったと青柳氏は振り返る。

 

「エンジニアは『マネジメント』とか『人材育成』という言葉に拒絶反応を示すことが多いんですね。実際に話してみて痛感しました。ただし、よくよく対話を重ねると、考えていることは私たち経営陣とそう大きくは変わらなかったんです。要は言葉の問題だと気づいて、それ以降は言い方を変えようと。『マネジメント』と言わず、『技術をみてあげてよ』『助けてやって』という言い方をすることでポジティブにとらえてもらえるようになりました」

◇ クルーが3カ月間、毎週経営会議に参加する「BORDING PASS」

もう一つの重要な施策が、一般のクルーが役員会議にオブザーバーとして参加する「BOARDING PASS」だ。希望するクルーから2名が選ばれ、3カ月間、毎週1回の役員会議に参加。そこで、経営陣が何に悩み、重要事項をどう決めているかを自分の目で見ることができる制度だ。

 

「よく経営者目線を持てといいますが、責任と裁量がない立場で経営者の目線を持つことは無理だと個人的には考えています。ただ、経営陣が考えていることをシェアすることは理屈としては可能ですし、クルーにとっては視野を広げる機会にもなる。一般的に社員は決まったことを伝えられるだけですが、本当は決めるプロセスを知ることが大事なんですよね。そのためには1回だけ参加して部分だけを見ても意味がない。だから、議論のコンテクストが理解できるよう3カ月間というタームを設定しています。社内への情報拡散にも期待しているので、役員会議で見たこと、聞いたことは、インサイダー情報と個人情報以外は何でも言っていいよと参加者には伝えています。クルーの目があることで、経営陣にも緊張感が生まれますし、ガバナンスの面でもプラスの効果が生まれていますね」

 

最後に、抜本的に企業文化を再構築するにあたり、改革のリーダーに求められることを尋ねておこう。

 

「担当者があまり肩肘張ってしまうと企業文化もそういう設計になってしまいます。だから、まずは肩の力を抜くことですね。そして、社員の顔を見ること。社員がどういうふうに感じるのかということは頭でいくら考えても答えは出ませんから。社員が100人いるなら100人と飲みに行くのがいいと思います(笑)。重要なのは、ハード(制度)ではなくソフト(人)。対話の質と量を高めて、ソフト面の課題を探ることが何より大事なんです」

◇ 前川孝雄の取材後記

会社を変えるには、未来を見据えながらも、現場に飛び込むリーダーシップが必要

VOYAGE GROUPは、傍目からはユニークなオフィスや採用の形ばかりに注目が集まりがちであるが、大切なのは、その根っこにある企業文化であることを忘れてはいけない。青柳氏は、宇佐美進典CEOから人事担当役員を打診された際、「人事という概念のさらに上の企業文化構築に取り組みたい」とCCOというポジション創設を逆提案したという。そして、中長期的な未来を見据えて経営理念などの抜本的な改革に取り組み、一方で、足もとも視野に入れ、短期の人事施策に関してもインパクトのある打ち手を投入した。これら点の一つ一つで結果を出して経営陣や現場を納得させつつ、徐々に点は線となり、線が面となり、面は球体になって、今、VOYAGE GROUPは、誰の目にもわかるかたちで青柳氏が当初描いていた風土を持つ会社になっている。

 

私は研修したから、それのみで人が育つのではない。やはり現場でこそ人は育つものだと考えている。背伸びしなければならない仕事を任され、それをやり遂げ、振り返ることのできる「人が育つ現場」あってこそ、人は育つのだ。研修は振り返りなどの場面で有効といえる。青柳氏が作りあげてきた企業文化は、まさに「人が育つ現場」醸成の模範事例だともいえよう。

 

また重要なのは、強引なトップダウンでことを進めようとしなかったところにある。今、多くの企業で、「自律型人材になれ」「当事者意識を持て」と言ってはいるが、そもそも上からの号令だけでそのような人材が育つわけがない。青柳氏は、人事部メンバーを率いて、現場に入り込み、社員の一人ひとりと対話を重ね、彼らの言葉から課題を発見し、人と組織が育つ環境を整備していった。企業文化の改革は、コミュニケーションによる相互理解なしには成り立ちえないのだ。

 

 取材の最後に「VOYAGE GROUPが若手中心の成長期を過ぎ、成熟期に入ったとき、今のように『任せる』カルチャーを維持できると考えているか?」と問いかけてみた。青柳氏の答えは「出資会社への出向や社員の独立支援などのかたちで、会社側が法人解釈の枠を広げていけば可能だと考えている」というものだった。改革者は改革のさらにその先も見据えている。社員を型に嵌めるのではなく、はみ出す余地をいかに創出していくか──。多くの成長企業が今後抱えことになる課題をVOYAGE GROUPが乗り越えていくことに大いに期待し、今後も人が育つ会社のベンチマーク的存在であり続けることを、長いスパンで注目していきたい。

 

構成/伊藤敬太郎


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